この決断:乳癌(下)術後抗癌剤の情報を求めて
手術後の抗癌剤は、本当に有効なのか。
抗癌剤の副作用で死を早めることはないのか
朝日新聞(97-12-11)から引用



※編者コメント:本項から、抗癌剤や臨床試験に対する、医師と患者の考え方のギャップ・相違が伺え、驚くばかりです。ある医療機関で助かるかもしれない命が、別の医療機関では助からないかもしれない、そんな現実が垣間見えます。

@抗癌剤は有効か。医師の指示に従っても、あと2年の命
A臨床比較実験は人体実験と同様で、危険?
B治療法は、医師(医療機関)により天と地の差 がある



@ 抗癌剤は有効か。医師の指示に従っても、あと2年の命


医師の指示で、抗癌剤を服用し続けるが
[1番目の病院]Aさんは、故郷九州の大学病院で手術をうけた後、再発予防に経口抗がん剤とホルモン剤を飲むよう処方された。
[2番目の病院]この春移った首都圏のがん専門病院でも、同じ薬を飲むようにいわれた。「権威の先生にお任せしていれは安心だ」とずっと思ってきた。ほどなく、Aさんの肝臓に転移が見つかった。主治医は別の抗がん剤をといったが、信頼できず、
乳癌が肝臓へ転移、後2年の命と宣告
[3番目の病院]10月、3っ目の今の病院に移った。主治医は、あと2年の命だといった。

※編者コメント:以下は、3番目の病院へ通院中のAさんと同じ乳癌のBさんの会話です。抗癌剤に対する医師と患者の期待度の相違が伺えます。

9月の蒸し暑い日。首都圏の癌専門病院の待合室で、2年前に乳癌手術をうけた患者Aさん(37)に、同じ立
場の患者Bさんが話しかけてきた。
★Bさん「抗癌剤を飲み始めたら、副作用がひどくて。先生に話したら薬を止められたの」。
★Aさん「それじゃ、転移しちゃいますよ」。
★Bさん「私もそう思って先生に聞いたら、飲んでも飲まなくても、再発には関係ないんですって」。
Aさんが医師の名前を聞くと、何と自分と同じ主治医ではないか。驚いて主治医に尋ねると、
★主治医「ああ薬、効いてませんね」とあっけなく言われた。
★Aさん「苦しくても、『がん細胞をやっつけてるんだから、ガマンガマン』と飲み続けたのは、何だったのか」。



A 臨床比較実験は人体実験と同様で、危険?


欧米は、注射や点滴で3種類の薬の併用療法
★乳がんの術後抗がん剤治療は、世界的には、注射や点滴で3種類の薬を併用する「CMF」療法が標準治療となっている。
日本は、経口抗癌剤1種類の単剤療法
★だが、日本では経口抗癌剤「UFT」を1種類だけ使う「単剤療法」が広く行われている。錠剤なので飲みやすく、比較的副作用が軽いといわれる。
再発後に使うと、腫瘍を小さくする効果があるとされるが、延命効果はわからない
やっと、比較実験が開始。しかし、その臨床試験は、患者による人体実験に他ならない?
★経口抗癌剤「UFT」による単剤斉法の再発予防効果を、「CMF」療法と比較する臨床試験が、昨年から厚生省の研究班によって始まった。
★「UFT」は、Aさんが飲んでいたものと同系の薬剤だ。全国の42の医療機関が参加し、今200人が被験者になっている。 
★乳がんの体験から、医療を考える会の「イデアフォー」は、患者の立場からこの臨床試験に反対し、今月5日、厚生省に早急に中止するよう申し入れた。
臨床試験の実体(再発の可能性がある)を知れば、実験に応じる患者はいない!
★イデアフォーの青木栄子さん(49)は、「欧米では単剤ではなく、「CMF」のような多剤併用療法が原則。この事実を知ったら、比較試験の被験者となる患者はいないと思う。
標準治療をうければ、助かる可能性のある人も、臨床試験では再発しかねない。(編者注:抗癌剤の副作用による再発)1人ひとりの患者の命の重さをどれほど医師は感じているのか」と憤る。
Aさんは「CMF」なら再発を防げたかも
東大病院第二外科の川端英孝医師は、各国の臨床試験の結果をもとに、Aさんが手術後から「CMF」療法をうけていれば、再発の可能性を25%減らせたのではないかという。
Aさんは「最初に標準治療を受けておけばよかったか」と思う。だが、これまでの病院で、そんな説明は全くなかった。


B 治療法は、医師(医療機関)により天と地の差 がある


Aさん曰く、不勉強では私みたいに後悔する
★医師によって、治療法に天と地の開きがあることを知らなかった。日本と世界の落差も知らなかった。
★「怖いから、抗がん剤のことは知りたくないと思ったけど、勉強して選ばないと私みたいに後悔することになる」と話す。
★別の立場の医師は、「CMF」も日本でのデータはない。副作用など患者の負担を考えると「UFT」にも利点がある。ただし、事前に「CMF」も説明し、患者が選べるようにすべきです」という。
患者が動けば、医療は変わる!
★イデアフオーは、温存療法が世界的な標準治療になっているのに、日本で導入がおくれていた1990年代初めから、全国の乳がん専門医にアンケートし、その実施状況と内容を情報公開してきた。
★温存を進めるためではなく、十分に情報をえて、患者が納得して選ぶ、決める、インフォームド・コンセントの推進が目的だ。当時、数%だった温存療法は3割になった。川端医師は、この変化に果たした彼女たちの力は大きい、と語る。
患者が動けば、医療は変わる。温存療法で手ごたえと使命を感じた女性たちは、今度は、抗がん剤に注目し、行動し始めている。(生井久美子)