医療不信(下)現場の本音、医師だって悩んでいる
「診断の見落とし」や「投薬間違い」で悩む医師の本音
朝日新聞(2000-06-11)から引用
医療不信の記事に対し、くらし編集部には、日々、患者と向き含う医師たちから、悩みや苦しみをつづった投責も届いている。6月初め、忙しい仕事の合間をぬい、関東、閑西、中国地方の4人の医師に集まってもらった。現場で考えていることや感じたことを本音で語り合ってもらうため、匿名座談会とした。(くらし編集部・佐藤 純、辰濃哲郎)
| @ | 患者の病態が変化、始めてミスが発覚する | D | 1日の診察数が多すぎるのも、問題となる |
| A | 様々なミスがあり、絶対ミスはなくならない | E | 白紙委任をされた治療の時は、怖くなった |
| B | 治療ミスを公開しなければ、反省にならない | F | 主治医制度など、より良い制度の充実が必要 |
| C | 臨床に即した診断学の教育を充実する | G | 医局が続く限り、医療は絶対に良くならない |
匿名の座談会で、様々な問題が噴出!
匿名座談会出席者 |
| Aさん(40代) | :泌尿器科医、民間病院勤務 |
| Bさん(40代) | :内科医、開業 |
| Cさん(30代) | :内科医、民間病院勤務 |
| Dさん(40代) | :小児科医、公立病院勤務 |
司会者:医療不信に対する考えを聞かせてください。
A:日本は、患者と医者が、なかなか理解し合えない状態にあるんじゃないか、と思います。
B:私は、医者が患者に寄り添う教育を受けましたから、医療不信と言われても、理解できないことがいっぱいあります。
C:患者さんには、コストの意識がないんですね。日本はサービスヘの評価が低いから、患者を診る時間を2倍にすれば、医者、看護婦に負担がかかって、単純ミスはそういうところから出てくる。
D:小児科医として悲しいのは、意思疎通が図れない親が増えていることです。あと、患者さんの所見がきちんとできない若い医師も増えてきました。
患者の病態が変化して、始めてミスが発覚する
司会者:過去去に医療ミスをして、じくじたる思いでいることがおありでしたら。
A:膀胱癌の化学療法で、ビンブラスチンを投与してくれと指示したら、薬剤部が間違えて同じ抗癌剤のビンクリスチンを持ってきた。そのままの量を投与したら死ぬんですよ。大問題です。薬剤部が日中の仕事を終わって翌日の薬を病棟に渡す作業をしているときに間違えたらしい。薬剤師2人でダブルチェックしない限り防げない。ところが、日本の病院は薬剤師が少ないから、そんな余裕はないんです。
B:私は乳癌を見落としたことがあります。その人は少ししこりがあったんですが、超音波検査では確認できなかった。1年後に「リンパ節がはれた」と訴えて来ました。悪性リンパ腫だと思って、採血をして帰したが、次に来たのが11カ月後。すでに癌がリンパ節に転移していました。それからは、検査して自信のない人は、医師会の関係施設に「マンモグラフィー」というレントゲン検査を頼んでいます。
C:研修医のとき、過って胃薬を栄養チューブから入れてしまった。
一同:胃薬でよかった。
C:徹夜明けで、後から考えると「なんでこんなことしたんだろう」って思うんですけど。ぼーっとしてやっちゃうんですよ。
A:人を増やさないと、絶対間違いが起こります。
司会者:ということは、これまでずっと危ない状態が続いてきた?
C:最近増えたわけではなく、表に出始 めたから目立つだけで……。
A:ニアミスは本当にたくさんあります。看護婦さんもニアミスを集めた「アットハットノート」というのをつけています。
D:うちは、薬の使用量が通常より多い時には、決められた印を処方せんに書かなければ、必ず薬剤部から問い合わせが来ます。わずらわしいんですが、大切なことです。公立病院なのでピリピリしてます。(編者注:ということは、私立病院では、チェック機能が甘いということか?)点滴とか病棟で調剤するようなものは、ミスが起きてもおかしくない。
司会者:処方した薬と、投与される薬が同じかどうか、破認しているのですか。
A:信じるしかない。外来とか手術中と か、確認しようがない。
司会者:逆に言えば、患者さんの容体が変わらなけれは、ミスに気づかない?
C:(ミスは)わからない。
様々なミスがあり、絶対ミスはなくならない
司会者:改善するにはお金が必要ということですか。
A:人件費はいるでしょうね。「目」を増やすための。
C:私の最大のミスは、明け方、当直室のベッドにもぐり込んでいたら、患者の状態について看護婦から「パルス60です」と電話があった時。脈拍のパルスだと思って電話を切りました。5分後に別の看護婦が「サチュレーション(動脈酸素飽和度)が60です」と。跳び起きました。95以上が正常値ですから。その科では、動脈酸素飽和度のことを「パルス」と呼んでいたんです。患者は持ち直しましたが、看護記録に「当直ドクターにパルス60上申するも様子見るように(との指示)」と書かれました。「おーいそんなこと書くなよー」ですよね。いろんな大学から医者が来ていて、大学ごとに呼び方が違うんです。危ないな、とは思ってましたけど……。ほかには、僕が気づかないうちに患者が肺癌になっていた。以前とっておいたレントゲンを取り出してみてみる と、「ん?」。影が映ってるんです。
B:絶対見逃しはありますよね。だれでも。
A:北米などでは、胸部レントゲン写真一枚でも、放射線科に判読してもらいます。日本では、放射線科の読影に回す病院はほとんどないですよね。
D:私も苦い思い出があります。先天性心疾患の子どもが肺炎を起こして入院し、ほかの患者さんを診ている間に状態が非常に悪くなって、結局手遅れでした。挿管して人工呼吸器を付けるタイミングを逃してしまいました。
治療ミスを公開しなければ、反省にならない
司会者:隠蔽体質というのがありますよねえ、医療界には。
A:日本人の集団自体に、隠すという習性があるんじゃないでしょうか。
C:公開しなければ反省にはならないし、ぼくら勉強会に出て役に立つのは「こういう失負がありまして」という話です。ただ、電車の事故で死んだのと、治療をしてい死んだのと同じ次元で語られると困りますけど。新聞なんかでは、そう書いているような気がする。
臨床に即した診断学の教育を充実する
司会者:診断学というか、所見学というか、患者が訴える症状から総合的に診断するための教育は受けているのですか。特に患者を最初に診る診療所の医師には必要ですよね。
A:ないんじゃないですか
C:昔は、なになに病は、こういう症状、と覚えるわけですよ。実際にはこういう症状があったら、どれだけの病名が浮かんでくるかが大切。病名が多ければ多いほどいい医者ということになる。
A:そういうことを教えられる医者が大学にはいない。
D:本当の意味での臨床医があまり優遇されていないと思いますね。
A:特に大学で。
B:日本の不幸は、研究している人が患者さんを診ていること。臨床と研究を分けなきゃ。
司会者:学問としての診断学というのは あるんですか?
B:米国ではね。本当は開業医になる前に、そのためのトレーニングを受けなきゃいけない。そういう場がないんですよ。
1日の診察数が多すぎるのも、問題となる
司会者:医師との関係がうまくいかなくて、医療不信に陥る人が多いようです。
C:僕は最近、やっぱり病棟に行っていすに座って、天気の話からボチボチ入らないと、患者さんは本音を話してくれないんだなあと、何となく分かってきました。上の人からは教わっていません。インフォームド・コンセント(十分な説明と納得した上での同意)なんて新しい考え方ですから、上の先生はそんなことやってなかった。
A:大学では教えてくれなかったですね。
司会者:D先年の病院では1日に何人ぐらい診て、どれぐらい時問を割けますか。
D:1日外来だと、朝9時から夕方6時近くまで、50人ぐらいですね。
C:僕は5時間で60人です。
D:外国の先生に話すと、「ばかげてる」と言われます。
A:北米だと20人しか診てないですね。
白紙委任をされた治療の時は、怖くなった
司会者:日本医師会の幹部にインタビューした時、パターナリズム(患者は医師に従っていればいいという考え方)が好きな患者もいると述べておられました。
A:インフォームド・コンセントを完全に無視した発言です。医者がそういう人であれは、患者さんもそういう人が集まる。
C:主治医の言葉を神の言葉と思っている人がいるんですよ。
A:日本の医療を改善しようと思えは、パターナリズム を放棄して、きちんと説明すべきです。
C:80歳代の患者に、心臓手術をするか薬で治すか説明した時、同席した家族も50過ぎの方で、僕の説明に首をかしげるばかりで。最後に「うちのおやじを先生のお父さん だ、と思って治療してくださいと言われて、怖かったです。白紙委任ですから。
D:高学歴の親に多いんですけど、初めから疑ってかかってくる人は多いんですよね。
主治医制度など、より良い制度の充実を
司会者:B先生のおっしゃる主治医制度について説明していただけますか?
B:「主治医は患者の病歴を管理する責任を負う」。「患者が主治医以外の医療機関を受診したいと希望するときに拒んではならず、紹介状を書かねばならない」。患者さんは、一定期間、主治医にかかってほしいんですよね。継続的に診ていれば、どこに紹介したらよいかもわかる。
司会者:だれが主治医としてふさわしいか、あちこち行ってみないとわからない。
B:近くの先生でいいじゃないですか。評判のいい人。
D:あと、別の医師による所見を自由に聞ける態勢が大切。
医局が続く限り、医療は絶対に良くならない
司会者:大学の医局体制の中では、教授に逆らえないと聞きますが?
A:私が知る限り、教授が決めた治療方針に異を唱えたとしても、すぐ却下されます。
B:医大の症例検討会に出たことがあるんですけど、レントゲン写真を見ながら議論してても、教授のひと言で、下が何も言えなくなっちゃう。ある国立大で僕の知り合いが教授の実験を批判したら、烈火のごとく怒られて、飛ばされました。医局が続く限り、日本の医療は絶対に良くならない。
A:母校の婦人科では、教授にたてついた医師が出されました。
司会者:ものが言えないのが一番困りますよねえ。
B:言えないようにトレーニングされているところが一番怖いですよ。
D:米国ではスタッフが上の点数をつけるんですね。有名な教授でも、人格がちょっとという人で、辞めさせられてしまった。チェック機能がいつも働いていたような気がします。
C:僕は、上にたてつくことはできません。白分の考えと違う治療をやれと言われた時は、必ずカルテに「○○部長指示により」と書きます。問題が起こった時は、やったのは私ですけど、この人も言いましたよ、ということで。
A:教授から関連病院への人事権を取り上げたら、変わると思いますよ。