医療不信(検証編)SIDSは、病院ミスの隠れミノ
何でもかんでもSIDS(乳幼児突然死症候群)とするのは問題?
朝日新聞(00-06-16)から引用
SIDS(乳幼児突然死症候群)という言葉の知名度が高まるに従い、乳幼児の突然死が、何でもかんでも、原因不明のSIDS(乳幼児突然死症候群)とされる傾向が見られる。この傾向に対し、SIDSという病名が、病院の怠慢の隠れミノとの指摘も出てきた。(大久保真紀)
| @ | 訴訟:「窒息」という説明が一変した |
| A | 苦闘:「裁判」は困難。勝訴わずか1件 |
| B | 警告:安易に「SIDS」とせず、先ず届け出を |
| C | 参考:SIDS(乳幼児突然死症候群) |
訴訟:「窒息」という説明が一変した
★ちょうど1年前の6月16日、午前7時すぎ。千葉県鎌ケ谷市にある石井慎也さん(26)宅の電話が鳴った。次男の真滉(まひろ)ちゃん(当時4カ月半)が入院していた船橋市立医療センターからだった。
当初は「氷枕で窒息」。過失と説明される
★「(お子さんの)顔色が悪い。いまは落ち着いたが病院に来てほしい」。慎也さんと妻の忍さん(27)らが駆けつけると、看護婦がばたばたと動き回っていた。
石井さんらの話では、次のような経緯をたどる。当直医から「うつぶせの状態で見つかった。心肺停止の状態だったが、心拍は再開した」と説明があった。だが、脳波はほとんどなかった。
★午前9時半ごろには、小児科部長や担当医から説明があった。「ゼイゼイ言って泣いたので、看護婦が横向きにして背中にバイブレーターをあてておいた。その(約55分)後、熱を下げるために使っていた氷まくらにうつぶせになった形で見つかった。窒息とみられる。こちらの過失」という内容だった。
病院の説明が二転三転、「SIDS」といわれる
★その後、医療センターは「横向きにはしていなかった」と説明を変えた。一カ月後、センター側は「窒息の疑いもあるが、病院としては「SIDS」の疑いとしかいえない」などと石井さん夫妻に結論を伝えた。
★真滉ちゃんは、今も呼吸器をつけ、脳波は平坦のまま同センターに入院している。忍さんによると複数の看護婦が「真滉ちゃんからいろいろ学ばせてもらった。二度とこういうことが起こらないようにしたい」などと声をかけてくれたという。しかし、センターの見解は変わらな」った。
「SIDS」と言うだけで、真の問題を隠している
★石井さん夫妻は「組織として、犠牲になった人への謝罪や反省がなければ、次への学びはない」と問いかける。病院の態度に不信感を募らせ、このままにしておけば、病院が「SIDS」と言うだけで親を黙らせることができることにもなりかねないと考え、看護婦に過失責任があったとして船橋市に対して損害賠償を求める裁判を19日に千葉地裁に起こすことにしている。
★同センターは「(真滉ちゃんが)寝返りをしたかどうかが関係してくると思うが、責任問題や今後のことは提訴の内容をみて考えたい。ただ、今は入院されているので、全力で治療している」と話している。
苦闘:「裁判」は困難。勝訴わずか1件
★石井さんのケースのように、病院や保育所が途中から「SIDS」を持ち出すことは珍しくない。横浜市の櫛毛富久美さん(40)の次女のときもそうだった。1993年のある日、生後間もない次女はうつぶせ寝にされた。2時間半後、おむつを換えにいった看護婦が死亡しているのを見つけた。解剖結果は鼻口閉塞による窒息だった。
病院側は最初は土下座、次いで裁判になった
★病院側は、その場で土下座して謝罪したというが、半年後、「死因はSIDS」とする文書と、「SIDS」をめぐる裁判で患者側が敗訴した記録が送られてきた。対応に失望した櫛毛さんは、損害賠債を求めて提訴したが、一審、二審とも敗訴。最高裁で係争中だ。
★櫛毛さんの代理人を務める瑞慶山(ずけやま)茂弁護士は「原告に窒息の立証責任を持たせていることが問題」と指摘する。乳幼児の突然死をめぐってこれまでに40件を起える訴訟が起こっているが、原告側の勝訴が確定したのは一件だけという。「窒息の疑いがある状況でも、病院側には窒息でないことを証明する必要がない。あまりにも不公平だ」。34の裁判を調べた石井トク・岩手県立大教授は「判例では、SIDSであれば、病院の責任は問われず、窒息であれば責任ありとされている」と分析する。
「うつぶせ寝」が「SIDS」の一因だった
★もともと「SIDS」は、日本ではあまり知られない病気だった。欧米では、80年代後半から「SIDSは、うつぶせ寝などが原因で起こる可能性が高い」として、うつぶせ寝をやめるキャンペーンが始まった。その結果、SIDSによる死亡数は急減。8分の1まで減った国もあるという。
★日本では、櫛毛さんやSIDSで子どもを亡くした家族の会が中心になり、96年からうつぶせ寝をやめようと訴え始めた。厚生省の研究班が全国調査を実施、うつぶせ寝がSIDSを起こす危険性を三倍高めるほか、親の喫煙や人工乳なども発症リスクを高めることが分かったとして、98年、ようやく、うつぶせ寝をやめるように呼びかけ始めた。
警告:安易に「SIDS」とせず、先ず届け出
安易に「SIDS」とせず、十分な検査を
★乳幼児の突然死を安易に「SIDS」と診断しているのではないかと、専門家の側から警鐘を鳴らす動きも出ている。法医学者らでつくる文部省研究班(研究代表者=高津光洋・東京慈恵会医科大教授)は今春、「乳幼児突然死症候群診断の法医病理学的原則に関する提言」をまとめた。「安易にSIDSと診断され、外因死の隠れミノとして利用されている例も少なくたい」として診断基準を示した。
★具体的には、以下のようである。
@精度の高い解剖が実施されている
A死亡時の状況や生育環境など、死亡児について十分な情報が収集されている
B外因死や虐待の可能性が完全に否定されている
外因死や虐待による可能性が完全に否定できない場合、死因は「不詳」とすべきだとした。同時に、生後7日以内と1歳以上の死亡児については、特に「安易にSIDSと診断してはならない」と強調した。
現在は「SIDS」と言う言葉が、一人歩きしている
★高津教授は、「分からないものは分からないというべきだ。SIDSは既往歴や死亡時の状況、外因、厳密な解剖所見を経てからつけられる除外診断。しかし、SIDSとされるうち約8割は解剖なしで診断されている。今はSIDSが社会的に独り歩きしている」と話す。
★佐藤喜宣・杏林大学医学部教授も「今のSIDSはゴミ籍。何が入っているか分からない。窒息、虐待、肺炎なども含まれている」と警鐘を鳴らす。米国では、SIDSとされたケースが、実は親による虐待死だったことも次々と明らかになっているという。
★佐藤教授は、まず異状死体届を出すことが重要だと言う。届けが出て初めて、警察の捜査が入るからだ。「第三者の目を入れることが死亡者や患者の権利を守ることになる。これは、医者の良心の問題だ」と話す。
★長年、SIDSについて研究している仁志田博司・東京女子医大教授は「安易にSIDSと診断する病院があることは事実で、その点は反省しなければならない」としながらも、複雑な思いを口にする。「赤ちゃんが静かに亡くなることは本当に起こる。死因を分からないとしてしまうと、SIDSという病気がないことになってしまう。それでは自宅で赤ちゃんを亡くしたお母さんたちが、ちゃんと世話をしていなかった、などといわれなき叱責を受けることにならないだろうか」。
参考:SIDS(乳幼児突然死症候群)
★SIDS=SUDDEN INFANT DEATH SYNDROME:乳幼児が、予兆や既往歴もないまま睡眠中に突然死亡してしまう。日本では、かつて、年間500〜600人ぐらいが死亡していたが、厚生省が1998年、うつぶせ寝などをやめるキャンペーンを始めてからは、年間400人程度に減った。
★日本では2歳までに起こるとされ、解剖しても死因不明のためにやむを得ず診断される「除外診断」。
★国際的には「1歳未満の乳幼児の突然死のうち、死亡が病歴や健康状態から予知できず、死亡時の状況や精密な解剖検査によっても死亡の原因が説明できないもの」とされ、周産期の異常を考慮して、生後7日あるいは14日以内の突然死は除外されている。