医療不信(カルテ)カルテの改竄は、法に違反しないのか?
「カルテの改竄(かいざん)」の多発が、問題となっている
朝日新聞(00-06-29)から引用



先月末、大阪府の枚方市立枚方市民病院で、カルテ類を改竄(かいざん)、隠蔽(いんぺい)していたことが発覚した。改竄といえば、医療関係者にとって、最も許されないことの一つだろう。ミスをしたうえに隠そうとするのだから。しかもそれは、なかなか表面化しない。いったい、何の罪になるんだろう。ところが、取材を進めていくうちに、次第に腑(ふ)に落ちない気分になってきた。

@医師法・医療法では:不当行為だが規定なし
A裁判での立証は:法体系では、医師の不正を想定していない
B刑法では:規定があるが、摘発は「0」







医師法・医療法では:不当行為だが規定なし


改竄は、条文にないので、罪には問えない
★枚方市民病院で、2年前、医師の不手際を隠すため、当時の院長が看護記録を書き換えるよう指示し、2頁にわたって改竄されていた。また、乳癌ではないのに乳房を切除された患者のカルテに張り付けてあった病理検査の告芭書の上から、別の用紙がのり付けされた。
★「こうした改竄が、法に触れないわけがない」と厚生省に問い合わせてみた。医師法を所管するのは、健康政策局医事課。担当者は「一日、検討する時間をください」という。改めて別の日に訪ねてみると「不当行為だが違法とは言えません」。医師法24条の条文を示しながら「診療録を記載することと、5年間の保存を義務づけていますが、記載内容や保存形態については規定がない」と答える。★カルテ以外の記録類やレントゲン写真などの保存を規定しているのは医療法だという。同じ健康政策局でも総務課の担当だ。「ここでも「保存義務に『真正な内容』が含まれるとは思いますが、条文に書いていないので、罪には問えないようです」。
現行の医師法や医療法に不備がある?
★つまり、医師法にも医療法にも、カルテ類の改竄に関する規定はないということになる。省内を何力所か回るうちに、ある官僚が打ち明けてくれた。「改竄がいいと思っているわけではないし、法に触れないのがおかしいといち気持ちはわかります。でも、この法律は、そもそも趣旨が違んですよ」。






裁判での立証は:法体系では、医師の不正を想定していない


現行法規は、医師の良心に基づいて規定
★疑問を抱きつつ、医療過誤訴訟を多く手がける森谷和馬弁護士を訪ねた。東京・銀座の事務所に行くと、やはり「カルテを書き直しても、そのものが残っていれば保存義務違反には問えないと思います」。「しかし、なぜこんなことが裁かれないんでしょうか?」
★「現在の法体系は、医療従事者が不正を働くとは考えていないんです。法律が想定した事態と現実がずれてしまったんです。
★ここで森谷弁護士は、法律の解説書に書かれている文章を示しながら興昧深いことを教えてくれた。ある裁判官が書いたものだという。「およそ医師たるもの……(中略)……診療録の改竄、偽造などを工作して、訴訟対策上、自己に不利な記録を書き換えてしまうであろうなどといった経験則は存在しない。医師の社会的地位からして、公法上の規定に違反することの方が、医師にとって不利である」(民事訴訟法百選)。
★要するに、「社会的地位の高い医師が、それを失う覚悟で改竄などするはずがないし、そんなこと聞いたこともない」ということらしい。だが、枚方市民病院で看護記録の改竄を指示したのも、カルテに張った検査報告善を隠蔽したのも、当時の病院長である外科医だった。
改竄を指指摘るのは、実際上は困難
★これまで森谷弁護士が手がけた医療過誤訴訟でも、カルテ類を改竄したと思われるケースがたまにあったという。
★専門家らに問い合わせながら調べていくと、民事裁判で改竄が明確に認定された判決は、1986年、名古屋高裁が、「つじつまを合わせるため、(カルテの一部が)後日ほしいままに記入された」と認めたケースなど、数えるほどしか見つからない。





刑法では:規定があるが、摘発は「0」


法律で指摘は困難。最後は「医の倫理」
★たとえカルテ類が改竄されたとしても、それを立証するのは、相当難しいようだ。では、刑法では罰せられないのだろうか。
 法務省刑事局総務課に問い合わせると、適用できそうな条文は、以下の3つだという。

このうち改竄のような変造はBに当たる。
★実際にカルテ類の改竄で摘発されたケースはあるのだろうか。警察庁広報課に聞いてみると、「そういう統計はとっていないんですよ。聞いたこと? ありませんねえ」。
★最後は専門家に尋ねてみた。日大医学部の押田茂實教授(法医学)は「そういったケースが明らかになったら、医師としての基本的な倫理を問い、医業停止などの行政処分にするしかない」と説明してくれた。
★しかし、医師の免許剥奪や医業停止処分などを検討する医道蕃議会が審議するのは、重い刑事処分を受けたり、診療報酬の不正請求が明らかになったりしたケースがほとんどだ。医師法や医療法では、罪に問えない。刑法でも難しい。刑法で問えなけれは、行政処分も難しい。問われるのは「倫理」だけなのだろうか。