医療改革を前に@「薬は両刃の剣」 使いこなせるか
「医師への警告」が生きず、死を早めた多くの症例
朝日新聞(97-09-10)
※編者コメント:副作用のない薬はほとんどありません。以下のケースは、厚生省が「強い副作用の存在」を指摘していたにもかかわらず、「医師の不注意」あるいは「副作用に対する解釈」の相違により、死に至ったケースが掲載されています。なお、以降の掲載文の太字や傍点部分あるいはコメントは編者が記したものです。
| @ | ケース1 抗がん剤イリノテカンによる副作用死 |
| A | ケース2 抗ウイルス剤ソリブジンによる副作用死 |
| B | ケース3 解熱剤による副作用死(ショック死) |
| C | 医療費の約3分の1が薬の費用 |
@ケース1 抗がん剤イリノテカンによる副作用死
肺癌による入院後、1カ月で突然の死
★奥山文さん(63)=神奈川県大和市=の夫で会社員の二郎さんは1994年6月、66歳で亡くなった。
★3月未に肺がんと珍断され、5月に入院した。病室の多くのがん患者がやせ衰えているのに比べ、二郎さんの顔付きはふっくらとしていた。
★ところが、入院から1カ月足らずで突然、危篤になった。親せきを呼ぶ間もなかった。医師からは「奥山さん(の体力)を過信していました」とだけ言われた。
★文さんは、気持ちの整理がつかなかった。「なぜ死んだのだろう」。新聞やテレビで「がん」という言葉を見聞きするのもいやだった。
たまたま新聞記事で、夫の死の原因を知る
★夫が亡くなって約4カ月が過ぎた10月21日。ようやく「寿命だったんだ」と思えるようになったときだった。「抗がん剤、塩酸イリノテカンの副作用で11人が死亡」という朝刊の記事が目についた。
★代表例として、1人の患者のことが詳しく書かれている。死亡したのは6月。男性。66歳。肺がん−。「お父さんのことじゃないか」投与された抗がん剤の名前も、このとき初めて知った。
★記事は、代表例の患者について、厚生省の見方として「(副作用の)骨髄抑制を起こしている可能性が高いことは十分予測できたはずで、(医師の)経過観察が十分でなかった」と伝えていた。
★文さんと3人の子供は翌年1月、治療を受けていた公立病院の主治医らを相手に提訴した。被告側は「副作用などについて説明し、家族の承諾を得た」などと主張し、全面的に争っている。
厚生省は、副作用ついての厳しい警告を出したが
★塩酸イリノテカンは94年4月の発売当時、「効き目の鋭い画期的な新薬」という触れ込みだった。半面、副作用も強い。いわば両刃(もろは)の剣といえる。臨床試験では、477人中20人が白皿球の減少や激しい下痢などの副作用で死亡している。
★承認に際し、厚生省は異例とも言える「縛り」をかけた。使用できる医療機関や専門医を限定したうえ、副作用への注意を促すかつてない厳しい警告を添付文書に書き込んだ。
★「効き目の穏やかな薬に慣れている日本の医師が使いこなせるか」。省内では、いぶかる声も聞かれた。これまでの抗がん剤と同じように使用したら、大変なことになる。
医師の技量が問われ、3年間に死者42人
★「画期的な新薬」を使いこなせるかどうか、医師の技量が問われた。
★発売から約3年の今年3月までに、副作用による死者は42人にのぼっている。
Aケース2 抗ウイルス剤ソリブジンによる副作用死
医師は服用禁止の薬を処方した
★横浜市のナレーター春日ひとみさんの母は93年9月、ウイルス性帯状疱疹(ほうしん)の治療薬、抗ウイルス剤ソリブジンと抗がん剤の相互作用で64歳で死亡した。
★母はがんの手術を受けた後、帯状疱疹で近所の開業医にかかっていた。服用していた抗がん剤をその場で医師に見せた。しかし、医師は併用してはならないソリブジンンを処方した。ソリブジンの添付文書には、「抗がん剤との併用を避けること」という表現がある。
★春日さんが開業医を相手に起こした訴訟で、開業医側は「禁止とは受げ取れなかった」と抗弁している。春日さんは納得できない。「『避ける』とは『してはいけない』ということ。それが世間では常識ではないでしょうか」
薬の併用で医師の間に解釈の相違がある
★ある大学研究室が3年前、「併用を避けること」の意味を医師がどう受けとめているかを調査した。
★「注意して併用すれは大丈夫」270人のうち、そう答えた医師が51%いた。
Bケース3 解熱剤による副作用死(ショック死)
解熱剤の薬物反応によるショック死
★93年5月10日。福岡市内の大学4年生、吉岡誠さん(当時21)が、一人暮らしのアパートで死んでいるのが見つかった。検視の結果、死因は3日前であることがわかった。死因は急性循環不全。薬物反応や出皿などで起きるショック症状だ。
体温も測らず数種の解熱剤を投与される
★死亡したとされる日、吉岡さんは吐き気と下痢を訴えて近くの医院で診察を受けている。「かぜによる胃炎、大腸炎」と診断され、緊急用の解熱剤を体温計で体温を測らず注射された。
「重篤な副作用」の警告を無視した投薬
★その解熱剤の添付文書には、「ショックなどの重篤な副作用が発現することがある」と警告があり、「ほかの解熱鎮痛剤との併用は避けることが望ましい」との注意が書かれている。
★医師はさらに、2種類の解熱鎮痛剤を渡していた。いずれも鎮痛効果のある薬との併用は「避けることが望ましい」と添付文書にある。吉岡さんはそれを1回分、飲んでいたという。「死んだ原因は薬しか考えられない」として、父親の信夫さん(59)は昨年10月、医師を相手に提訴した。
★薬と死亡との因果関係はいまだはっきりしていない。医師側は「額に手を当てて発熱を確かめ、必要と判断して解熱剤を投与した。何ら過失はない」と主張している。
★亡くなる前夜、父がかけた電話で、吉岡さんは「就職活動頑張るから」と話したという。それが、親子の最後の会話になった。信夫さんは、いまも息子の死が信じられない。
C医療費の約3分の1が薬の費用
財政悪化に伴い、薬剤費の削減が焦点に
★27兆円に達する医療費。うち、薬の費用は約八兆円を占める。医療保険財政の悪化に伴い、国際的にみて高いとされる薬剤費の削減が焦点になっている。
★なぜ日本の薬剤費は高いのか。薬は正しく使われているのか。本格的な医療制度改革を前に、「薬」の周辺を追った。