医療改革を前にB揺らぐ治験(臨床試験)への信頼
薬の臨床試験は本当に正しく行われているのだろうか
朝日新聞(97-09-13)



※編者コメント:薬私たちは、医師から処方される薬を「安全なもの」と信じて、服用しています。しかし、その薬が本当に「安全なもの」か否かは、治験(臨床試験)にかかっています。いま、製薬会社と薬の臨床試験機関の間の癒着が問題となり、薬の治験結果が「信頼できるか否か」で揺らいでいます。

@臨床試験(治験)の信頼性を疑わせる製薬会社と研究者との関係が問題
A大学・国公立病院でもデータを改ざんしていた
B「研究費稼ぎ」目的の多すぎる治験が問題
C治験に対する反省から、新しい動きも出てきた



@臨床試験(治験)の信頼性を疑わせる
製薬会社と研究者との関係が問題


研究室は寄付のため、治験を引き受ける
★都内の私立大学医学部の教授が、ある製薬会社の臨床試験(治験)を引受けたのは2年前のことだ。教授は会社幹部に対し治験を受ける「受託研究費」以外に研究費の寄付を持ちかけた。額は500万円。
★治験が終わったあと、寄付は教授が研究員を兼務している財団法人に振り込まれた。大学に寄付してもらうと、光熱費などを差し引かれる。財団に振り込んでもらった方が、使える額が大きいという。
大学の研究費を、製薬会社に頼る体質が問題
★この教授の場合、大学の研究室を維持するには、年間に約4000万円は必要だ。ところが、文部省や大学からの研究費で
まかなえるのは、せいぜい、その2割。
★残りは製薬会社に頼るしかないのだという。「メーカーと癒着していると言われるが、他のどこに頼めるのか。治験は『寄付』の話を切り出すいい機会だ」
治験は製薬会社と研究者との癒着の温床
★治験は、製薬会社と研究者との癒着の温床になりかねない。新薬の安全性や効果を確かめる治験への信頼を揺らがせた「事件」も少なくない。
※編者コメント:上記のことから、治験を引き受けて得る「受託研究費」やその他の「研究室への寄付金」は、ともすれば、製薬会社の治験薬に手心を加える可能性がないとは言い切れません。


A大学・国公立病院でもデータを改ざんしていた


大学病院での、デタラメの新薬の治験
★94年11月、血圧降下剤の治験をめぐる贈収賄事件が、国立香川医大付属病院で摘発された。
★翌年春、同病院を立ち入り調査した厚生省の担当官は、「目が丸くなるような実態」をみた。
知らないうちに、治験の対象者にされていた!
★新薬の治験に参加する「同意文書」にあった複数の患者の署名の中には、実は病院の職員が書いたものがあった。検察庁で文書を見せられ、自分が治験の対象者だったことを初めて知った患者もいる。
カルテを偽造して、厚生省に申請していた!
★厚生省の担当官は、製薬会社から厚生省に提出された患者の症例記録と、病院のカルテとを突き合わせてみた。血圧の値が違う。薬の効果があるようにみせるため、治験開始前の患者の実際の血圧よりも高い値を症例記録に記入したらしい。
★症例記録の上では血圧や脈拍などを毎週検査したように記載されていた患者が、一カ月に一回しか通院していなかったことも、カルテからわかった。
「研究費稼ぎ」目的の治験が多すぎる
★この病院では、年間200〜300件もの治験が行われていたという。多くの治験をこなそうとする中で、改ざんやねつ造が起きた。
諸施設で現金を授受、データを改ざんしていた!
★この事件の後、国立習志野病院、熊本大医学部付属病院、茅ヶ崎市立病院でも、治験担当医が製薬会社から現金を受け取り、データを改ざんするなどしていた事件が相次いで発覚した。
★「赤信号を医局のみんなで渡っていた。車にひかれたのは一部の人だけだ」。汚職事件の舞台となった病院の医師は、厚生省の担当官にこう語ったという。


B「研究費稼ぎ」目的の多すぎる治験が問題


★国内ではいま、年間約1000件前後もの治験が進行している。
「高い新薬」と「研究費稼ぎ」の関係
画期的でなくても、新薬であれは高い薬価がつく。だから製薬会社は新薬開発に奔走する。承認後に薬を売り込みやすいよう、なるべく、多くの病院で治験を行う。一方、病院側は治験を「研究費稼ぎ」の機会ととらえ、次々と引き受ける。
★厚生省の担当官は「摘発されたのは一部の特異な例とはいえ、多すぎる治験がデータ改ざんなどルール違反を犯す原因となっている」と語る。
治験中の副作用死を、厚生省に報告せず
★抗ウイルス剤ソリブジンと抗がん剤との併用で多数の死者が出た薬害事件では、ソリブジンを開発した会社が治験中に起きた副作用死を厚生省に報告しなかった。
★この事件がきっかけとなり、治験のルールを定めた「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」(GCP)が大幅に改定され、今年4月施行された。


C治験に対する反省から、新しい動きも出てきた


治験基準の改善により、患者の意思を尊重するようになった
★新GCPでは、治験に参加する患者から文書で同意を得ることが義務づけられた。治験が研究目的であること。副作用の危険があること。いやなら途中で治験をおりることもできること。
こういった説明を聞いた患者の多くは、「それなら、今までの薬を使ってください」と治験への参加を断るという。
治験参加者が減り治験が困難な現実
★あるがん専門病院の医師が最近、19人の患者に治験への参加を持ちかけた。しかし、17人に断られた。別の大学医学部
の医師は、治験に参加してくれる患者を5人集めるのに半年かかった。
★新GCPに沿って治験を行おうとする医師からは「患者が治験に参加してくれない」と囁く声が聞かれるようになった。
治験に、前向きの考え方も芽生える@
★しかし、製薬業界の中には、治験の正常化に向けた生みの苦しみととらえる考えもある。「これまでは患者のためではなく、会社の(もうけの)た机の薬の開発が横行している面もあった」。
★大手製薬会社で長年、新薬の開発に携わってきた役員は自戒をこめて話す。「患者が治験を断るのは、その新薬が患者にどうしても必要ではないから。副作用があることを承知したうえで、それでも治験に参加してくれる良い薬を開発する努力をしなけれはならない」
治験に、前向きの考え方も芽生えるA(口絵写真から)
★治験改革に精力的に取り組んでいる病院もある。東京都立駒込病院では、患者の立場に立って治験の実施をチェックする専従の看護婦を採用するなど、治験の質の向上のための試みを模索している。
★「実働部隊」の治験事務局には、医師だけでなく看護婦、薬剤師も参加し週1回定例会議を開いている。