医療改革を前にF「カルテの公開=情報開示」は誰のため?
なぜ「カルテが非公開」の治療機関が多いのだろうか
朝日新聞(97-09-18)
※編者コメント:本来は、患者のものであるはずのカルテが、現在は多くの病医院で非公開です。この非公開が、「薬の副作用のチェックが不可能」、「薬の水増し請求の温床」、「診療内容のチェックが不可能」を招き、患者は医師に何も言うことができません。この項は、カルテの非公開が「薬の水増し請求」を招いている現実を掲載したものです。
| @ | 不正請求の手口(その1) 薬の水増し請求 |
| A | 不正請求の手口(その2) 非公開「205円ルール」 |
| B | カルテは、医師のもの?それとも患者のもの? |
| C | 政治の間で翻弄されるカルテ開示問題 |
@不正請求の手口(その1) 薬の水増し請求
ベテラン審査員が不正請求を見破る
★シグマート7錠、フランドル6錠、アダラート6カプセル、ヘルベッサー4錠。東京プラスチック健康保険組合で診療報酬明細書(レセプト)の審査をしている女性は、ある医療機関から送られてきたレセプトを見て「多すぎないか」と感じた。
★いずれも狭心症などの治療に使う薬だ。それぞれ計28日分が処方されている。審査機関である支払い基金に再審査を求めたところ、それぞれの薬の量がほほ半分に減らされたレセプトが戻ってきた。10.640円を医療機関から取り戻した。
一保険組合だけで、不正請求を年間1億4200万円も取り戻す
★女性は審査歴20年。「経験を積めば、素人でもレセプトから医療費の過剰な請求を見抜くことができるはずです」
★この健康保険組合では1996年度、再審査によって取り戻した医療費は1億4200万円を超える。
A不正請求の手口(その2) 非公開「205円ルール」
「205円ルール」で服用した薬が判らない
★横浜市の主婦佐々木菜美さん(33)は今月10日、夫の入っている健康保険組合からレセプトの写しを受け取った。5月に病院の産婦人科で長男を出産した際、出血がひどくて保険診療も受けた。自分が飲んだ薬が何だったのか知りたいと思った。しかし、レセプトには1日30円の薬が14日間出ていることしか書かれておらず、薬品名と投与量は記されていなかった。
★その理由は「205円ルール」にある。服用回数が同じ薬の薬剤費の合計が1日当たり205円以下の、安い薬を使った場合は、レセプトヘの薬品名、投与量の記載を省略できる。医療機関の事務負担を軽くする目的だが、このため、患者が薬の名前を知りたくてもわからない。
「205円ルール」は不正の温床!?
★「205円ルール」は、保険の適応外になっている安い薬を使いやすくしている側面がある。その一方で、「不正の温床ではないか」との指摘もある。
★例えは、薬の架空請求や、数十円の薬を205円ぎりぎりにする水増し請求をされても、支払い基金や健保組合などの保険者では発見できないからだ。レセプト開示で患者本人によるチェックが可能になったものの、水増し請求は、もらった薬の保険点数を調べておかないと見抜けない。
貰っていない薬が保険機関に請求される(口絵写真から)
★東京都新宿区の主婦(44)が、昨年10月にがん検診でかかった開業医で受けた診察についてのレセプトの写し。
★薬はもらっていなのに、薬剤費1036点(1点10円→この場合は10,360円になります)が保険請求されていた。
★右側の摘要欄には、1036点の内容として、19点と18点の2種類の薬がそれぞれ計28日分出されたことになっているが、「205円ルール」で薬品名、投与量は記されていない。
Bカルテは、医師のもの?それとも患者のもの?
例外的に、カルテを患者と共有する医師もいる
★埼玉県和光市の開業医・天野教之さん(39)は4年前から、すベての患者にカルテの写しや検査データを提供している。カルテは2枚つづりの複写式。一枚を天野さんが保管し、残りを「健康管理ノート」というファイルにとじて患者に渡す。患者はそのファイルを持って通院する。
★天野さんが書いた「健康管理ノートのきまり」にはこうある。「カルテに記載された事項はすべて患者さん本人の情報です。この情報は患者さんと医師が共有すべきであると思います」。しかし、このような医師は日本では例外的だ。
カルテの開示を拒む理由は
★神奈川県藤沢市の主婦・向井澄江さん(47)は昨年4月、都内の病院で、前年の6月に心臓弁膜症の手術を受けたときのカルテの写しをほしい、と主治医に頼んだが、「ちゃんと説明しているからいいじゃないか」と断られた。
★カルテ開示を拒む理由として、医師はまず告知問題をあげる。がんや精神疾患など病名の告知が難しいケースでは、投薬内容を知られると治療に影響が出かねない。患者の性格を主観的に分析した記述もある。医師の診療内容がわかるカルテを、細かく詮索(せんさく)されたくないという意識も根強い。
C政治の間で翻弄されるカルテ開示問題
カルテ開示の法制化の動きもあるが
★自分のからだに関する情報を患者本人が見ることができない。カルテなど診療記録の開示の法制化は、情報を求める患者にとって長年の願いだ。
★社民党が6月、法律制定を目指すと発表した。市民団体「患者の権利法をつくる会」が、91年に公表した法律要綱案を参考にしている。与党の医療保険制度改革協議会のメンバーである社民党の上山和人参議院議員は8月7日、記者会見をして、「権利法とセットでなければ、改革案には乗れない」と力説した。
反対意見も多く、法制化は遠のくばかり
★患者の負担が引き上げられる9月1日の前までに、改革案をまとめる日程の中で、医療保険財政の建て直しの議論が優先された。権利法については、何ら具体的な議論もなく、先月29日未明に時間切れとなった。
★「患者の権利擁護に関する法律については、引き続き検討する」。与党3党が交わした確認事項の第1項には、こう記された。しかし、与党協議会の座長の丹羽雄哉代議士(自民)は語る。「立法化に合意したわけではない。法律をつくるとなれば、医師会は『なぜ患者の権利だけなんだ』となるし、たいへんだ」