医療改革を前に(付録1)定評の(低薬価の)麻酔薬が製造中止に!
安全性が確認されている低薬価の薬が製造中止になり、
安全性が未確認の高薬価の薬が横行する現実
朝日新聞(97-09-29)



★医師が長年使い慣れ、広く普及している全身麻酔薬が、採算割れで製造中止となることになった。同種の代替薬はあるものの、いずれも採算割れで製造は先細りする一方だ。
★使い方を誤れは愚者が死亡しかねない劇薬だけに、代替薬を強いられる全国の医師に不安や戸惑いが広がっている。事態を重く見た日本麻酔学会は近くメーカーや厚生省に対応を求める要望書を出すことにしている。
新薬というだけで高い価格がつきがちな一方で、長期間、医師が使い慣れ、薬効も確立した薬は安くなり製造中止に追い込まれるという、日本の薬価制度の矛盾を浮き彫りにした形だ。

@ケース1 定評のある麻酔薬「ラボナール」が採算割れで製造中止
Aケース2 代替品もやがて製造中止に追い込まれる?
B低薬価の安全な薬の製造中止は大問題(日本麻酔学会長)
解説新薬ほど高い薬価の矛盾


@ケース1 定評のある麻酔薬「ラボナール」が
採算割れで製造中止


ラボナールは実績のある安全な麻酔薬
★製造中止となる全身麻酔薬は、田辺製薬(本社・大阪市)の「ラボナール」注射用チオペンタールナトリウム)。
★1951年から発売され、麻酔医だけでなく、妊娠中絶手術など短時間の手術や、精神神経科の治療など、多くの医師が使
い慣れた定評のある麻酔薬だ。同種の全身麻酔薬に限ると、そのシェア(市場占有率)は50%を潰える。
しかし、薬価が低くなり、製造中止
★ところが、田辺製薬は、この7月から8月にかけて、「ラボナール」を在庫限りで、販売中止とすることを全国の医療機関に文書で通知した。
★文書によると「医療上の有用性から不採算ながら、製造販売を継続していたが、製造設備が老朽化し、やむなく製造を中止する」としている。
多くの医療機関で、新代替薬に不安感
★「ラボナール」を長年使っている医師は「麻酔薬は投入量をひとつ間違えば、患者さんを死なせてしまう劇薬。
★代替薬があるといっても、使い慣れた薬でなくては不安だ」と話す。


Aケース2 代替品もやがて製造中止に追い込まれる?


同種の代替品の薬価も低く抑えられる
★また「ラボナール」と同種の代替品は、ほかに2社が57年から製造販売しているが、やはり薬価は低く抑えられでおり、
2社が製造中止を検討中
★一社は「製造中止の方向で検討」(杏林製薬)、もう一社も「製造中止を希望している。
★医師の批判もあり、近々の中止は困難だが、大幅な増産もできない」(吉富製薬)としおり、このままだと医療現場に混乱を招くことになる。


B低薬価の安全な薬の製造中止は大問題
(日本麻酔学会長)


新薬は、薬価が高く、使用制限もある
★これら3社とは別に、95年に発売された全身麻酔薬があり、シェアも伸びているが、「ラボナール」などよりはるかに高いうえ、妊産婦へ投与が禁じられている。
★「ラボナール」などとは適用範囲が異なり、麻酔専門医以外の医師がすぐ使いこなせる状況ではない、という。
日本麻酔学会は厚生省に要望書を提出
★こうした事情から、日本麻酔学会には、「ラボナール」の製造中止の通知を受けた会員の医師から苦情が相次ぎ、同学会は緊急理事会を開いて、メーカーや厚生省に対して、混乱を回避するための方策を求める要望書を提出する準備をしている。       
★日本麻酔学会の吉村望会長(鹿児島大医学部教授)は、「『ラボナール』を使い慣れている医師は麻酔医だけではなく、影響は大きい。
★安くていい薬が次々と製造中止の運命をたどることは医療界にとって放置しておけない大問題だ」と話している。


解説:新薬ほど高い薬価の矛盾


日本の薬価制度や製薬会社の姿勢が問題
★長年、医師が使い慣れ、薬効も確立された全身麻酔薬「ラボナール」の製造中止は、「古い=安い」「新しい=高い」という日本の硬直した薬価制度や製薬会社の姿勢のあり方を問うている。
★厚生省が定める公定価格である薬価は、長い間、販売されている薬ほど安くつけられる。
★発売開始から46年たつ全身麻酔薬「ラボナール」の薬価も低く抑えられ、1997年度の薬価は、300_c1菅が278円、500_c1菅で352円。
★製造販売している田辺製薬によると、採算割れは、この十数年続いている、という。95年に発売きれた全身麻酔薬の薬価は200_c1菅が2008円の薬価がつけられており、「ラボナール」の低さがわかる。
品質管理に関する経費も製造中止の理由
★また田辺製薬は製造中止の理由について、採算割れとともに、「製造設備の老朽化」をあげている。
★製造段階での品質確保のため、厚生省が定めた「医薬品の製造管理および品質管理に関する基準」(GMP)が昨年4月から強化され、新たな設備投資が必要になったことが製造中止の引き金になった、という。
「参考価格制度」の導入も、「安くて必要な薬」を市場から無くす一つの原因
★政府・与党では薬剤費削減のため、市場での取引価格を参考に、健康保険から支払う上限価格を設定する「参考価格制度」の導入をめざしているが、上限価格の設定の仕方によっては、「安くて必要な薬」が市場から消えるという問題は、今後も超こりかねない。
★医療費削減が迫られる中、厚生省や製薬会社は、薬効が確立した薬を、いかにして品質管理し、かつ安く供給していくかという、難しい課題を突きつけられている。