医療ミス:増えたのではなく隠していただけ
続出する医療事故、自分の体は自分で守る!!
日刊スポーツ(2000-08-28)から引用
患者取り違えなどによる、死に至る初歩的な医療事故が続発している。それも「安全」と思われていた大学病院、総合病院が舞台になっていることが多い。新日本プロレスのリングドクターでジャーナリストの富家孝氏に、事故を生む病院の構造、医療事故から身を守る方法を解説してもらった。 【荒牧公哉】
 | ◆富家孝(ふけ・たかし) 1947年(昭22)3月31日、大阪府生まれ。医家の16代目で、慈恵医大卒。内科医院開業後、病院経営を経てジャーナリスト、医療コンサルタント。早大、青山女短大講師、新日本プロレスリングクター、慈恵医大相撲部監督などを務める。著書は「開業医の嘘 大病院の罠(わな)」など多数。 |
| @ | 医療ミスが増え続ける背景 |
| A | 医者(医療機関)選びのチェックリスト |
| B | 開業医と勤務医の収入は天地の差 |
| C | 今年(00年)7月までの主な医療事故 |
医療ミスが増え続ける背景
ごく初歩的な医療ミスが多発
★もし「風邪をひいた」と思って病院に行き、注射してもらったところ、間違って消毒液を打たれたら?
★冗談ではなく、ごく初歩的な医療ミスが多発している。富家氏に尋ねると「医療事故は最近になって増えたわけじゃないんです。
【注】日本では現在、医療事故として約5000件の訴訟が起こされている。しかし、米国では年間約4万人近くが医療事故で死亡している。米国との人口比からすれば、日本の医療事故は、年間2万件前後発生している可能性高い。
厚生省が、全国501病院から回収し、6月にまとめたアンケートでは、事故を院長に報告したケースは、事故総数の約半分、厚生省に報告した件数は1割弱。病院の隠蔽(いんぺい)体質を如実に示している。
★今まで隠されていたものが、公になるようになってきた。亡くなった方はお気の毒ですが、構造的な問題なんです」。
医者の数が増え、看護婦にしわ寄せが
★富家氏は「医者の数が多いことも一因です」とした上で、「日本には、約25万人の医師免許取得者がいる。
【注】日本の医者の数は、現在約25万人。毎年新たに医師免許を交付される医者は、約8000人で、約2000人が死去または廃業するため、年に約6000人ずつ増加している。厚生省は、1994年(平6)に「2025年には、過剰な医師が2万6000人になる」と試算している。
★1970年代のほぼ2倍の人数になったわけで、昔より儲からない職業になった。でも医者はクビにしにくい。そこで給料の高いベテラン看護婦などを辞めさせて経費を節約する病院が多いので、初歩的な医療事故が起こる。
★病院の評判が落ちると、患者が減る。するとさらに経営が苦しくなるから、事故を隠そうとする」と解説する。
【注】経営難に陥り、今年7月までに倒産した病院・診療所の数は、東京商工リサーチの調べによると、全国で23件。過去最悪の倒産件数を記録したのは、94年で46件。今年はワースト記録を更新する可能性もある。94年はバブル経済崩壊後、過剰な設備投資や土地購入などが、倒産原因の上位にあげられた。
しかし、今年はリストラの失敗などが原因に挙がっている。人件費の高い医師の数が増加しているのにもかかわらず、医療保険から支払われる国民医療費の伸びが減っていることが、病院を直撃している。国民医療費の伸び率は、96年まで6%前後だったが、97年以降は2%台となっている。
医者という肩書きを、患者は誤解している
★事故を隠そうとする体質は、警察の不祥事隠蔽(いんぺい)体質と変わらない。だが、富家氏は「多くの患者さんが医者を誤解している。
【注】医者について、富家氏は「勉強はできます。だが、国家試験をパスするまで勉強ばかりしていて、社会的な常識を知らない者も多い」と言う。
医師免許を取った後に日常接するのは、患者と看護婦、薬品会社の営業マンらだけ。「周囲から、『先生』とおだてられ続けテングになる医者も多い。毎日数十人以上を診察する生活は、ストレスがたまりやすい。深酒が原因でアルコール依存症になる開業医もいます。患者も、医師をよく観察した方がいい」。
★その誤解が事故を誘発するケースもある」と指摘する。「まず、医者とは技術を売り物にした職人だから、いい医者とは治療や手術の腕がいい医者のこと。それなのに『○○大学医学部教授』『××総合病院院長』などという肩書きに惑わされる患者さんが多い」。
教授になるには腕前よりも政治力
★富家氏は医学生時代、不器用な教授が何度も手術で大出血を引き起こし、助教授らが必死に止血した手術例を何度も耳にしたという。
★「医学部の教授になるために必要なのは政治力で、腕前はあまり関係ないんです。東京だと病院がたくさんあるから、患者さんは、病院を変えるることもできる。でも、地方だとそうにもいかない。
【注】地方では、大学病院が一つしかない県が多い(東京の医学部付属病院は13)。医学部が地元の国立大学にしかないことがその理由。一般的に病院の格付けは、以下の順番で、
@大学病院
A国立医療センター、国立病院、都道府県 立の公立病院
B民間の総合病院
C個人開業の病院
D入院施設のない個人クリニック
大学病院、国立医療センター、国立病院などは、国から、「特定機能病院」の指定を受けている。地元の病院などから、紹介状を受けた後、通院するのが通例だ。 「大学病院だと、患者が医者の研究材料として扱われる側面もある」ことを知ってもらいたい。(富家氏)
★地方だと、中には『祖父の代からお世話になっているから』などといって、下手くそな医者に通い続ける人もいるんです」。
医者(医療機関)選びのチェックリスト
★富家氏は、「大体『××総合病院』などを含め、病院の名前や規模には権威なんてない。治療、手術の腕前だけが医者選びのコツです」という。医療ミスから身を守るには、まず自分でしっかり病院や医者を選ばないとダメということ。どうしたらいい病院、いい医者に巡りあえるのだろうか。富家氏の監修で作成したチェックリストをヒントにしてみてください。
★上記の項目にあなたの病院は、何個当てはまりますか?
0個なら:とりあえずは安心です。
1〜3個なら:治療や診察結果を、冷静に見てみよう。
4〜7個なら:転院を考えた方がいいかもしれません。
8〜10個なら:かなり危険かもしれません。自分の体は自分で守らなければ。
各項目の解説
- 待合室に感謝状などがある:医学博士号、認定医の証書、感謝状などを飾る必要はない。自信のない医者が自分を飾り立てるためによくやること
- 診断後1週間分の薬を出す:薬は3〜5日分しか出さないのが常識。3日服用して効果がなければ再診して薬を変える必要がある
- 「念のため」と再診を進める:診察回数が増えれば、その分収入が増える。金を稼ぐために、しつこく再診を進める医者もいる
- どんな症状でも一人で診察する:どんな病気でも治せる医者はいない。どんな症状でも、自分で抱え込もうとする医者は要注意
- 「1日も早く」と手術を勧める:もちろん手術が必要なケースもあるが、患者を納得させようとせず、とにかく手術を勧める医者は信用しない方がいい
- 医者の数より診療科目が多い:医師免許を持っていれば、何科を開業しても自由。しかし、そんなに多くの専門を持てるはずはない
- 看護婦が少なく仕事量が多い:医者が1人で全てをまかなっているような医院では、ミスが起きやすい。たとえば、小児科医院なら看護婦2人、医療事 務員1人は必要
- 院長が政治家としても活動している:人望のある医師なら地元民に請われて出馬することもあるだろうが、政治活動を始めれば、医療はおろそかになる
- 立派な医療機器が多くある:飾っているだけの場合もある。腕に自信がなければないほど、道具だけでも立派なものを欲しがる傾向もある
- カルテを絶対に見せてくれない:第3者に対するカルテの守秘義務はあるが、癌告知などにかかわるケース以外は、本人の依頼なら見せてくれるはず
開業医と勤務医の収入は天地の差
以外と安い、勤務医の給料
★ある私立大医学部付属病院の男性勤務医(35)は「収入は多分、普通のサラリーマンよりちょっと多いぐらいですね」と明かす。年間の給与は約900万円というから、高給といわれる都市銀行マンなどレベルは変わらない。在京テレビ局社員などよりは安いだろう。
★地方都市在住ならかなり高収入と言えるが、男性勤務医は「みんな医者というと金持ちだと思うようだけど、金を持ってるのは開業医だけ」とこぼす。お見合いの席で、相手の女性に年収を聞かれて答えるとあからさまにガッカリした表情をしたという。「思っていた金額の3分の1ぐらいだったのかな(笑い)」。お見合いは破談になった。
以外と安い、勤務医の給料
★仮に医師免許を取って小さな個人クリニック(入院用のベッドのない病院)を開業しようとすると、設備投資などには最低1億円が必要。
★勤務医から開業医に転じるための資金面のハードルはかなり高い。
今年(00年)7月までの主な医療事故
1月:島根県の国立療養所松江病院で、人工呼吸器のスイッチが切られたままになって、女児が死亡。看護婦が呼吸器のスイッチを入れ忘れる。
2月:青森県八戸市立市民病院で、女性 患者が右足と間違え、左足に手術を受 ける。医師の確認ミス。
3月:京都大学付属病院で、人工呼吸器の加湿器に消毒用のエタノールが入れられ、女性患者が死亡。看護婦が蒸留水とエタノールを間違える。
4月:神奈川県伊勢原市の東海大学付属病院で、1歳6ヶ月の女児が内服薬を静脈に点滴され、死亡。看護婦が点滴用チューブに内服薬を誤って注入。
6月:千葉県立東金病院で、人工透析を受けた男性患者の血管に空気が入って死亡。看護婦の確認ミスが原因。
7月:茨城県つくば市の筑波大学付属病院で、肺感染症の30代の男性が肺癌の60代の男性と間違えて肺を切除される
7月:東京都板橋区の日大医学部付属病院で、80代の男性が研修医に降圧剤を注射され死亡。ブドウ糖と降圧剤を間違えた研修医のミスが原因。